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希少本 筑前博多独楽
筑紫珠楽 著高千穂書房昭和52年初版438ページ約28x20x4.8cm(函の寸法)函入 金箔押布張り上製本

※別刷りの正誤表付
古典芸能としての独楽芸について書かれた古文書や文献はほとんどなく、あっても、非常に断片的なものであるが、日本を代表する筑前博多独楽師・筑前博多独楽宗家・筑紫珠楽が、コマの歴史、独楽の種類、独楽芸の技、独楽の作り方、舞台心得など、その秘伝のノウハウを惜しみなく公開したもの。大変貴重な資料本です。
【あとがき】より 日本の芸能・博多独楽の稿をあたためて二十数年、実際に筆をとってから一年目にやっと脱稿した。 申上げるまでもなくわたくしは、独楽師であってもの書きではない。だから、この書物の執筆も舞台の合間をぬっての作業であったから、三日もあけると、先に書いた原稿を、もう一度読みかえしてみないと先にすすまない。その間、写真撮影もしなければならない。しかも、手さぐりの迷いながらの執筆であるから、悩みはつきない。それと同時に、この本を独楽芸の専門書として書くべきか、趣味の読み物として綴るかの選択についても同じであった。 かりに独楽の技術をプロの立場から、詳細に深く掘りさげてみたとして、はたして幾人の人が理解してくれるであろうかと案ずる反面、単なる、通り一遍の読物であっては、なにもわたくしが拙い筆をおこす必要はないとも思った。 考え迷った末、一般のひとには、博多独楽という古典芸能が、どのようなものであるかについておぼろげにも理解でき、さらに興味をもって研究する人には、独楽芸の技術面、精神面で何らかの参考になる書物、といったところに落ちついた。 さて、ことばでは簡単にいえても、いざそれを文字に書いてみると容易なことではない。 独楽芸には四百年にわたる伝統がある。その歴史と伝統を受け継ぐものとして、ここで一巻の仲物としてまとめることが、わたくしの任であるかどうかは別として、意味のないことではない。わたくしは、そう考えて、あえて筆をすすめた。 本書の執筆にあたって、次の三点には特に留意した。 第一に、芸ということに重点をおいたことである。単なる曲技の「独楽まわし」ではなく、古典芸能としての「独楽芸」を取りあげたことである。独楽芸は、その制作から、打独楽、舞台演技と一つの道でつらなる芸道であり、単なる曲技に終ってはならないとわたくしは考えている。したがって、「芸の心」ということについて。くどいまでにふれた。 なぜならこれは、多年舞台をふんできた、独楽師としてのわたくしの実感であり、芸なくしては、博多独楽の将来も発展もない。博多独楽が単に曲技の独楽ではなく、古典芸能としての独楽であってほしいと願ってやまないからである。 第二は、技術面についてである。従来、とかく独楽芸につきものであった神秘観や誇張を退けたことである。真の独楽芸は、このような超人間的な神業では決してないし、ましてや、無責任な小説まがいの、机上の空諭で演じられるほど生やさしいものではない。 独楽芸はたゆまぬ努力と、真摯な日日の修錬によってのみ、会得されるものであり、独楽の醍醐味もそこにある。したがって、一朝一夕で到達できる境地ではない。練習といわず修錬とした真意もそこにあった。 第三は、博多独楽の歴史である。これについては、わたくしが調査した文献はそれぞれ文中に引用することによって、諭証の基本とし、一切私見をはさまず。推測すべきところは推論として補足した。 独楽芸についての古文書や文献はほとんどない。あっても、非常に断片的なものである。 わたくしは、この書物の執筆に当って、前後二回にわたって、全国の各図書館に資料の照会を試みたが、集まったもののほとんどは民芸玩具の独楽に関するもので、独楽芸の資料といえるものは、一、二点にすぎなかった。 引きつづき調査、研究をつづけて完璧を期したいところである。

【序文より】一芸に生きる ―序にかえて― 私の幼い頃の博多の町では、独楽は四季をとおしての遊び道具だった。独楽廻しが上手なこと、とりわけ、喧嘩独楽に強いことは、男の子の誇りでもあった。遊びも、地面に廻っている相手の独楽をめがけて、紐でまいた自分の独楽を、頭上よりたたきつけて廻す勇ましいものだった。時にはその一撃で、相手の独楽は真半分に割れて、飛び散ることさえあった。そのために子供達は思いのまま、自分の独楽の芯棒を鑢で鋭く尖らせた。独楽を空中で投げまわし、地面に落とさずに直接手に受けとる宙取りも、ほとんどの子供がやってのけるくらい盛んなものだった。私も独楽遊びに熱中して、日暮れにも気づかず、母から叱られたことがたびたびだった。あの頃から、四十数年にもなるが、独楽は何時も私の傍でまわっている。 ふりかえってみると。戦後、専門の独楽師として舞台に立ってからの二十数年は、博多独楽ひとすじの人生であった。 独楽師として私は、自分の使用する独楽は、自分でつくる。先代も日頃、独楽を自分でつくってこそ独楽師だといい、暇さえあれば、コツコツと独楽を造っていたものだった。私の独楽は、原木の伐採から仕上げまで、数年の歳月をかけ、細心に、精巧に、祈りをこめて仕上げた独楽である。当然、自分の意のままに、舞ってくれるだろうと期待するのだが、時にはこの独楽が、思いもよらずあばれだすこともある。その時の驚きとあせり、そして落胆は、尋常一様のものではなく。身が細り死ぬ思いがするもので、独楽に生命のあることを、いやというほど思い知らされるのもこの時である。 博多独楽は、物、心、技、つまり独楽と心と技との三位一体の芸能である。その舞台は見せるというより。独楽師自身が日頃の精進を、独楽にたたきつける場であり、独楽と独楽師の白熱の闘いの場である。ましてや、プロの芸というものは高度な演技を百回演じて一回の失敗も許されない。私もこのことを肝に銘じ、努力を重ねて舞台にのぞんだが、やはり失敗はあった。そんな夜は、独楽を手にとって、いろいろと思いなやんだ。しかし。こんなとき独楽は非常なもので、一言も語りかけてこなかった。あれこれと、詮索を重ねて、眠れぬ夜さえあった。 しかし、一つのものを追いかける根気と執念で、私は独楽にすべてを賭けた。日本の古典独楽芸、しかも元祖博多独楽の伝統と栄誉をになっているという自負心と責任感が私を励ましてくれた。現在、博多独楽宗家として、門弟も全国各地にひろがり、お互に一つの独楽で結ばれていることを思うとき、私は、独楽ひとすじに生きてきたことに喜びを感じる。 つねづね私は、芸の道は遠く嶮しいものだと痛感する。とりわけ、流れる水は清く、よどむ水は濁るの譬のとおり、芸というものは決して沈滞してはならないとも思っている。芸はつねに進歩向上していくところに尊さがあり、それゆえにこそ。芸としての価値も生まれてくると思う。しかし、それはいたずらに新しさを求めて走るということではない。むやみに新規をてらって。仕掛けの独楽におぼれては、もはや博多独楽ではなく、芸でもなく奇術といえよう。博多独楽の真髄は種や仕掛けをよせつけない、手錬のわざによる古典芸能ということにつきると思う。現在を出発点として古きにもどる、つまり昔のよさをもとめ。先達の苦心のあとを追って修錬の道を辿る。現在の技芸に淀むことなく、後向きにひた走る。それもまた芸の前進だといえる。そしてその古典を現代に活かした独楽の芸、これが今後の新しい課題だと思う。 この『筑前博多独楽』の本は、外国にその類をみない日本独特の、真の古典芸能とも言える博多独楽の姿を、四百年の昔から今日までに綴ったものだが、その底流をなすものは、これが進歩発展を希う芸への情熱であることを理解して頂ければ幸いである。
変転の中に動かぬ 独楽の芯独楽師の舞台
【目次】より幕開き立て物日輪末広打独楽風車大黒羽根つき五彩胡蝶春雨傘、独楽づくし瑞鷹雁金衣紋水車飛梅白糸雲龍博多独楽の演技独楽と遊ぶ立て物立て物の演技/まず何でも立てよ/テープの先の先きを追え/立て物は腰できまる日輪つまみ引き/はたき引き/あて廻し/坂落し/片手ひねり/打ちあげ/放れ駒日輪(2)まわした独楽を掌の上にのせる/糸あやつり/淀の川瀬の水車/博多独楽の水車/逆さ風車/逆さ立ち/櫓太鼓/大独楽の演技は連続技である末広打独楽打紐を巻く/独楽打ち/上・中・下 三段の打独楽/打紐の絡みを警戒する風車風車について/風車の立て物/雪折笠/鯉の吹流し/木の葉落し大黒手搓りまわし/独楽を直立させる/糸の張りかた/独楽を糸にのせる羽根破胡板は手なれたもので/度は直立させる/打ちあげ/掬いどり/蛙跳び/早馳け/あわせ鏡/まわしどり/こぼれ梅/独楽の芯は指を三角にしてつまむ/追い羽根/小手返し/小口止め胡蝶紐掛け/捻り掛け/打ち掛け/擦り上げ/本掛け鶯の谷渡り/日の出の独楽/指廻し/鯉の滝上り/打ち上げ/振り取り/小振り/中振り/大振り/振り戻し/鞏どり/掌落し/足掛け/背廻し/裏どり/頭上廻し/連携技飛梅雲龍万度を舞台天井より吊す糸に独楽を昇らせる博多独楽の修錬独楽芸と独楽まわし修錬の日日師匠/石の上に三年/芸は盗め/舞台に立て/スランプ/法輪転ずれば物心技の体所作の美静と動曲芸の間/口上の間/囃子の間/舞台演出の間格調独楽の種類と道具衣裳博多独楽の種類日輪/末広・飛梅/風車/大黒/羽根/五彩/胡蝶/瑞鷹・雁金・衣紋・水車・雲龍/白糸その他の仕掛け独楽舞台道具独楽櫃/独楽盆/刀箱/万度/纒/日本刀/小竿/扇子/破胡板/打紐/芯飾り/五彩板/糸と紐/その他舞台衣裳博多独楽制作心得帳独楽制作心得独楽と独楽師の事芸独楽の事独楽材吟味の事独楽挽きの事鉄芯の事独楽の眠りの事芯棒の調整法糸張り独楽の芯棒近代化学素材を使った独楽塗りと花押の事独楽舞台心得帳舞台心得帳1はじめに/舞台と観客/山場とテンポ/連繋技と無駄の無い動き/心のつなぎ/テレビ出演のこと舞台心得帳2はじめに/学校や社員慰安会/敬老会や学会/組合大会など/日本間/野外舞台/夏祭り/クラブやキャバレー/いろいろな舞台独楽の発祥と独楽という文字独楽の発祥原始の独楽/唐独楽/輪鼓/鞭独楽/海螺独楽/博多独楽/銭独楽/手車/お花独楽・八方独楽/松風独楽/鉄胴独楽/掛け独楽/東長寺独楽/捻り独楽/その他の独楽コマという文字はじめに/楽/獨楽/独楽/古末都无利/都无求里・川牟久利・豆具利/己末川不利・己万川不利/古馬・古末・高麗/独落/伯/空鐘/陀螺輪鼓/惜千々博多独楽の出現博多独楽の起源/博多独楽の源流/博多独楽の特色/鉄芯の利点博多独楽と芝居興行独楽芸の発祥博多独楽と芝居興行博多独楽の盛衰博多独楽人物列伝博多独楽芸人物列伝元禄・宝永・正徳享保・天文・寛保松井源水/源之助延喜・寛延・宝暦燕屋五郎/独楽つくり五太夫/菊平明和・安永博多吉五郎天明・寛政・享和博多永蔵/博多蝶兵衛/博多善蔵/博多亀蔵文化・文政・天保博多長之助/博多長四郎弘化・嘉永・安政竹沢藤次/奥山伝次/博多小蝶/松井喜三郎/藤田喜三郎/二代目竹沢藤次万延・文久・元治・慶応早竹虎吉/十三代松井源水明治・大正・昭和

★状態★ 昭和52年当時物のとても古い本です。函の外観は通常保管による経年並ヤケ・スレ・裏表紙側にうすいテープ跡などがある程度、布張り上製本の外観は経年並良好、天小口に経年並ヤケしみありますが、本文は目立った書込み・線引無し、 問題なくお読みいただけると思います。(見落としはご容赦ください)
<入手困難本>オークションにも滅多に出ない、貴重な一冊です。 古本・品にご理解のある方、この機会にぜひ宜しくお願いいたします。

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